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入門 能の世界:舞Noh Dance

高砂
高砂(金春欣三) ©TOSHIRO MORITA

舞は、謡や囃子といった音楽的要素とともに、総合的な楽劇である能の、大本になるものです。舞という言葉は、能の、個々に現れるからだの動きを表現するだけではなく、懐の深い意味をもっています。能一曲を演じることを「能を舞う」と言います。広い観点からの「舞」は、音楽や動作をすべて含み込んだ、能の総合的な表現活動を総称しているのです。

一方で、能の一曲のなかの特定部分を、“舞”として、他の要素と分けて呼んでいます。中之舞、序之舞などがこれにあたり、小鼓や大鼓、太鼓といったリズム楽器と笛の音が織り成す囃子の音楽に乗って演じられるものです。

“舞”の種類

囃子に乗って演じられる“舞”では、男か女か、神か人かなどの役柄や、祝言物か修羅物か、あるいは鬘物かといった曲の違いに応じて、さまざまな種類があります。“舞”では、笛の旋律が主体的な役割を果たし、旋律の微妙な違いやリズムの違いによって、多彩な舞曲を構成します。以下に主な“舞”をご紹介します。

序之舞 — 野宮
序之舞 ── 野宮(津村礼次郎) ©TOSHIRO MORITA
中之舞(ちゅうのまい)
素早くなく、ゆったりしすぎてもいない舞。普通・通常の基準になるような舞。大小物(笛と小鼓、大鼓で演奏)、太鼓入り(笛と小鼓、大鼓、太鼓のフル構成で演奏)の2種類があります。主に現在物の女性等が舞います。熊野、松風、胡蝶など。
序之舞(じょのまい)
非常にゆったりしたテンポの、品格のある舞。大小物、太鼓入りの2種類があります。白拍子、遊女、高貴な女性の霊、女体の神霊・精霊等の舞と位置づけられます。羽衣、井筒、江口など。
男舞(おとこまい)
現在物の直面・男性が祝言の心持で舞う舞。速いテンポの勇壮、剛毅な舞です。安宅、小督、小袖曽我など。
神舞(かみまい)
脇能で男性の神体が舞う舞。非常に速いテンポで、颯爽と品格を伴って舞われます。太鼓入り。高砂、養老、弓八幡など。
楽(がく)
宮廷舞楽の旋律を模し、神仙ほか中国に題材をもつ能や、楽人に関する能のシテが舞います。ゆったりと始まり、次第に速いテンポになる荘重な舞です。太鼓入り。天鼓、邯鄲、富士太鼓など。
神楽(かぐら)
女体の神や巫女が舞う舞。元は神事のお神楽に由来し、笛は独特の旋律を中心に神舞の旋律を入れるなど、さまざまに奏されます。流派によっては、シテが幣帛を持って舞います。太鼓入り。三輪、巻絹、龍田。

このほか、“舞”として盤渉早舞ばんしきはやまい鞨鼓かっこ急之舞きゅうのまい破之舞はのまいなどがあります。また龍神や天狗などが威勢を示す舞働まいばたらきや修羅道に落ちた武士の苦しみの様子などを表すカケリは、厳密には“舞”としては扱われず、それに準ずるものと位置づけられています。

これら“舞”の数々は、その曲の軽さや重さのくらいに応じても演じ分けられ、様式美のなかに多彩かつ自在な表現を含ませているのです。

舞いと踊りの違い

一般的によく誤用されますが、能の世界では「能を踊る」、「能の踊り」といった言い方はしません。能はあくまでも舞うものです。舞踊として一くくりにされていますが、「舞う」と「踊る」にはどういう違いがあるのでしょうか。辞書をひもとくと、「踊る」「踊り」の場合は、リズムに乗って飛んだり跳ねたり、手足を躍動させる動作が主体で、「舞う」「舞い」の場合は、摺り足で舞台上を移動する動作が主体になると紹介されています。

昔から、そのように区別され呼びならわされてきましたが、その境界はいつの時代も曖昧ではあったようです。能にも、拍子を踏んだり、飛び返ったりするような型もあります。しかしそれらを含めて、能の世界では古来「舞う」を使用しているのです。

また神楽、今様、朗詠、延年之舞、曲舞といった日本古来の歌舞音曲は、ここで言う舞の要素をふんだんにもっていました。能はこれらの芸能を、さまざまなかたちで取り入れており、その観点からも、舞と能との切り離せない関係が見えてきます。


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