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それから日のたったある日、鎌倉の北条時頼は関東八州の武士に召集をかけます。召集を聞きつけた常世は、みすぼらしい出で立ちながら、鎌倉へと駆けつけます。一方時頼は部下の二階堂に、ちぎれた甲冑を着て、錆びた薙刀を持ち、痩せた馬を連れている武士を探し出して、自分の前に参上させるように申しつけます。二階堂はさらに従者に言いつけて、そのみすぼらしい武士、すなわち常世を見つけ出します。 常世が参上すると、以前家に泊めた旅僧が実は時頼であったことに気が付きます。今回の召集は、時頼が常世の言葉に偽りがないかを確かめるためのものだったのです。時頼は実際に鎌倉にやってきた常世を称賛して横領された土地の回復を約束し、三本の鉢の木のお礼に、梅、桜、松にちなんだ三ヶ所の庄を与えます。常世は喜んで上野国へと帰って行きます。
シテの常世は英雄や武将ではなく、一人の平凡な武士です。しかし、雪を見ながら『和漢朗詠集』にある白楽天の詩に思いを馳せ、旅僧との出会いを『新古今和歌集』の藤原定家の歌に喩え、さらには粟飯を炊く場面では唐代の小説『枕中記』の故事を引き比べたりと、古典の素養を持ちつつ風情を解する人物として描かれています。常世の登場時の第一声「ああ降ったる雪かな」は能全体の出来を左右するほどの重要な一句であり、雪景色を表現しながらも、品格を保ち続けている常世の在り方を象徴している場面です。苦しい生活でありながらも鉢の木を育てていた常世ですが、作り物の大きさからも推し量れるように、当時の鉢の木は大型であり、常世が年月をかけて大切に育てていたことがわかります。こうした鉢の木を火にくべる様子からは常世の義侠心が伝わってきます。一方で、「いざ鎌倉」の語源とも言われるように、鎌倉の一大事には、他人から笑われるような格好でも一番に鎌倉に馳せ参じる心意気のある人物でもあります。質実剛健な気質を持った人物として常世は描かれています。 一方でワキの北条時頼は、鎌倉幕府の五代執権で、出家後は最明寺殿とも呼ばれていました。庶民のための政治を行った人物として知られ、変装して諸国を回ったという伝説が生まれ、史実であるかは別として、「太平記」などにその姿が描かれています。こうした伝説が「鉢木」の題材となっています。旅僧としての慎ましやかな謙虚さと、最高権力者としての格調高い貫禄、この両面を持った人物として作中では描かれています。 情緒的な大雪の上野国と軍勢ひしめき活気のある鎌倉を舞台に、常世の妻や二階堂なども加えた魅力的な人物たちの交流が、心打つドラマを作り出していきます。 ▼ 演目STORY PAPER:鉢木演目ストーリーの現代語訳、あらすじ、みどころなどをPDFで公開しています。能の公演にお出かけの際は、ぜひプリントアウトしてご活用ください。
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