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素謡 友枝喜久夫 粟谷新太郎他 © TOSHIRO MORITA |
能の音楽は、謡(うたい)と囃子(はやし)で成り立っています。謡は、シテ方が務め、囃子は囃子方により演奏されます。
謡とは能の舞いに添えられる歌謡です。
能では、シテやワキなど立ち方による一人称の謡(台詞や歌)で舞台は進行しますが、舞台には登場しない第三者の立場で出来事や風景描写を行ったり心情を朗唱したりする、所謂コーラスのような声楽のパートが、地謡(じうたい)です。
地謡は、シテ方によって務められ、能舞台では、地謡座と呼ばれるスペースに前後2列に座って務めます。後列中央の謡い手が「地頭」で、謡の中で中心的な役割を果たします。
謡には西洋音楽のような絶対音階はありません。調律も、シテや地頭によって決められるという、柔軟性のある声楽です。地謡方は複数の人数が務めますが、西洋音楽の合唱のようにハーモニーを形成することはありません。音高はそろえますが、各自の声で謡います。地頭は、トーンを整え、タイミングをはかり、全体を統制していきます。
謡のリズムは七五調の12文字を一文として、八拍子に当てはめて謡います。「平ノリ」が、謡の標準的なリズムです。平ノリより早いリズムを「中ノリ」、遅いリズムを「大ノリ」といい、この3つを「拍子合」(ひょうしあい)といいます。八拍子から外れて謡うものを「拍子不合」(ひょうしあわず)といいます。
謡の歌唱法としての吟型は、厳粛で勇壮な曲調の「強吟(つよぎん)」と旋律的で情緒的な「弱吟(よわぎん)」に分けられます。
能の音楽を担当するのは囃子方です。囃子方は、舞や謡の伴奏をするのではなく、シテや地謡と対等に対峙し、能の調べを構築しています。
囃子方は、笛(能管)、小鼓、大鼓(大皮)、太鼓の四種類の楽器からなり、これを「四拍子」と言います。それぞれの楽器は専門に分かれていて、家の芸として高度な技術と芸風を継承しています。演奏は、一人一役。自分の持分以外を演奏することはありません。
演奏では、太鼓が拍子のリードをとりますが、太鼓が入らない「大小物」では、大鼓が小鼓をリードします。打楽器奏者は楽器を演奏するだけでなく、「ハッ」「イヤー」「ハホンニョー」「ホゥ」など掛け声を掛けますが、これは、間合いを取り、演奏の位置を知らせあっているのです。
能で使われる笛(能管)は、竹でできた横笛です。四拍子の中で、唯一旋律楽器であるにもかかわらず、能では、メロディよりもリズムを主として演奏します。このような笛の奏法は、能の囃子方の特色です。
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笛 寺井久八郎 © TOSHIRO MORITA |
能管の奏法には、 謡や打楽器のリズムに合わせずに、適当に音を伸縮して吹く「アシライ吹キ」や、打楽器のリズムにあわせて吹く「合セ吹キ」などがあります。
メロディを重視しないため、能管は、一本一本で長さや穴の位置に違いがあり、調律もされていないため、音の高さや音階が異なります。能管の演奏は、あくまで謡を修飾して、主人公の心理を象徴的に表現し、気分をかもし出すことが目的となるのです。
現存する流儀には、一噲流、森田流、藤田流があります
所謂「鼓」としてポピュラーなもので、これも拍子を司ります。左手で調緒(しらべお)と称する紐を握り、右肩に載せて右手で打ちます。調緒を調整することによって、4種類の音色を奏でることができます。大鼓と異なり美しい音色のためには、革には湿気が欠かせないため、演奏中も息を吹きかけたり、唾液をつけたり、絶えず気配りが必要です。
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小鼓 成田達志 © TOSHIRO MORITA |
現存する流儀には、観世流、幸流、幸清流、大倉流があります。
大鼓は、拍子を司る手打ちの鼓です。調緒(しらべお)と称する紐を堅く閉めてあるので、音は、打つときの強弱と、打った後に革を押さえつけるかどうかによって決まります。奏法は、左ひざにおいて、右手の指で打ちます。硬い音を出すために、革を乾燥させる必要があり、演奏前に1時間ほど炭火で焙じます。柔らかい小鼓の音とは対照的な音となり、調和がとられています。
現存する流儀には、葛野流、高安流、大倉流、石井流、観世流があります。
太鼓は、台に掛けて床に据え、二本の撥で打ちます。革を撥で抑えて響かせない奏法と、大中小に強弱をつけて音を響かせる打ち方があります。2本の撥を使うため、連続打音や複雑なリズムも可能になり、曲に華やかさを与えますので、神、鬼、精霊など、超人間的な役の所作や風流な芸能の描写に用いられることが多くなります。太鼓が入る曲でも、一曲を通して演奏し続けることは少なく、おおむね曲の後半に入るのが典型といえます。
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太鼓 助川治 © TOSHIRO MORITA |
現存する流派は、観世流、金春流です。
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